古事記のヤマタノオロチ神話とは
古事記に書かれたヤマタノオロチ神話は、出雲を舞台にしたパートでもっとも有名な話です。出雲国風土記は古事記と同じ時代に出雲で書かれましたが、ヤマタノオロチは一切登場しません。ヤマタノオロチ神話は、中央政府が各地の伝承をもとに建国神話の一部として創作したとする説が有力です。
スサノオによる退治伝説
ヤマタノオロチ神話はスサノオによるヤマタノオロチ退治伝説で、スサノオの英雄伝説でもあり、話の骨格は普遍的です。スサノオとは女神アマテラスという日本神話の最高神の弟であり、暴走して天界を追放されますが、地上で重要な役割を担います。
天降りしたスサノオがヤマタノオロチ退治を申し出る
ヤマタノオロチ神話の始まりはスサノオが天降りし、ヤマタノオロチ退治を申し出る場面です。
スサノオは出雲国の肥河上流にある鳥髪(とりかみ)に降り立ち、老夫婦のテナヅチ・アシナヅチと末娘のクシナダヒメに会いました。大蛇が高志(こし)から毎年来て老夫婦の娘を順に食らっていると聞き、スサノオは末娘との結婚をかけて退治を申し出ます。
ヤマタノオロチを酒に酔わせて見事に退治
スサノオはヤマタノオロチに酒を飲ませて、酔った隙をねらって剣で斬り倒し、見事に退治しました。
老夫婦に濃く醸造した八塩折(やしおり)の酒と、8組の垣根・門・台・酒つぼを用意させて待ち伏せます。ヤマタノオロチは酒好きで、8つの頭で酒を飲み干して寝てしまい、スサノオが剣で斬りかかると肥河は大蛇の血で赤く染まりました。
退治で得た剣をアマテラスに献上し出雲を支配
スサノオはヤマタノオロチ退治で剣を発見し、持ち帰って最高神のアマテラスに献上し、自身は出雲を治めました。
剣はヤマタノオロチの尾の中から見つかり、スサノオの剣を刃こぼれさせた強力な剣で、都牟刈(つむがり)の太刀といいます。スサノオはクシナダヒメとともに出雲国の須賀に日本で最初の宮殿を建て、日本で最初の和歌を詠みました。
草薙剣のルーツ
ヤマタノオロチ神話は草薙剣(くさなぎのつるぎ)のルーツを語る話でもあると考えられています。
草薙剣とは正当な皇位の証として天皇家に伝わる三種の神器の1つで、古事記によると都牟刈の太刀が草薙剣です。皇室の祖先神アマテラスは孫のニニギが地上を統治する際に、スサノオから預かっていた草薙剣を自身の鏡・勾玉とともに授けました。
神話におけるヤマタノオロチの正体は?
日本神話におけるヤマタノオロチの正体は解明されておらず、実在しない生物ということ以外はわかりません。ヤマタノオロチ神話は、7~8世紀の中央政府が日本を統治するのに必要として作ったストーリーであると考えられています。神話と当時の日本や周辺国の歴史を照らしあわせて、さまざまな解釈がされてきました。
説①:氾濫した斐伊川
ヤマタノオロチの正体は氾濫した斐伊川とする説が有名で、神話は出雲地方を流れる川の治水にまつわる伝承とする説が根強いです。
古事記の肥河は島根県の斐伊川と考えられており、ヤマタノオロチは斐伊川を流れる土石流で、水害が村を襲っていたとも読めます。クシナダヒメは氾濫を鎮めるための人身供養で、退治作戦は堤防を作って治水したことの比喩です。
説②:出雲国
2つ目の説はヤマタノオロチの正体を出雲国とし、ヤマタノオロチ神話は大和朝廷と出雲の抗争を描いているとする説です。アマテラスが天皇を意味し、スサノオは大和朝廷からの使者を意味していて、朝廷が出雲国を征服した話とも読めます。
出雲は朝廷に対抗する代表勢力だった可能性があり、考古学では大和政権が日本を統一する前の最大勢力は出雲国とするのが有力です。
説③:製鉄技術を持つ部族
3つ目の説はヤマタノオロチの正体を製鉄技術を持つ部族とする説で、スサノオを農耕部族とする説です。
ヤマタノオロチの赤い目は炎を見る職人の目で、ただれた腹は溶けた鉄の例えとも読めます。奥出雲には古代からたたら製鉄が行われてきた歴史があり、強い鉄剣を作れる環境でした。製鉄用の砂鉄や木炭を採ることで斐伊川が氾濫して農村の稲田を襲い、農民が製鉄民に抗議したと読めます。
説④:北陸からの侵略者
4つ目の説はヤマタノオロチの正体を北陸からの侵略者であるとし、スサノオを出雲国とする説です。古事記にはヤマタノオロチは高志から毎年やって来ると書かれていて、高志は北陸地方にあたります。出雲市古志町には高志の人々が住んでいた説もあることから、高志が出雲に干渉していた可能性に注目した説です。
出典:イラストAC