目次 [表示]
- JALが作ったZIPAIRとは?
- JALが出資する新しいLCC
- JALが設立を決意したLCCの業界事情
- 2020年のコロナ渦で貨物便として運行
- 旅客向けは10月16日に運行開始
- JAL系ならではの機内サービス
- 大きめの機体とゆとりのあるシート
- 機内エンターテイメントは自分のスマホで
- 機内食はスマホで注文可
- その他機内サービス
- 一般的なLCCとの比較
- 料金はLCCらしくJALより格安
- ソウル便は片道8000円から
- 手荷物にかかる追加料金
- 預け入れ手荷物の料金
- 座席指定の料金
- JALが得意な海外路線から就航
- ソウル
- バンコク
- ホノルル
- 将来の路線拡大の見通し
- JALマイレージプログラムとの連携
- JALとのマイレージは貯まるか
- 空港ラウンジは使えるか
- JALとのコードシェアの可能性
- 格安だけどJALらしさの生きたLCC
JALが作ったZIPAIRとは?
ZIPAIRは2019年にJALが設立を発表した格安航空会社(LCC)です。コロナ渦を乗り越えて、2020年10月から国際線の旅客運航を開始しました。JALと言えばサービスは良く運賃は高いイメージですが、JALが作ったLCCとは、どのようなものでしょうか。
JALがZIPAIRの設立に至った背景から、料金、サービス、就航路線まで、全容を徹底解説していきます。
JALが出資する新しいLCC
ZIPAIRは、JALが100%出資するLCCです。JAL系のLCCとしては、既にジェットスター・ジャパンがあります。しかし、ジェットスター・ジャパンは、オーストラリアのカンタス航空が設立した本家ジェットスター航空に倣って作られた会社で、カンタス航空も出資しています。
JALが100%出資して、独自の構想に基づき設立したLCCは、ZIPAIRが初めてです。
JALが設立を決意したLCCの業界事情
LCCとの激しい競争にさらされた大手航空会社が、「LCCに客を取られるくらいなら自前で作ろう」と意思決定する事例は珍しくありません。国内ではANAもピーチ・アビエーションを作っています。
ピーチ含め既存の日系LCCは、国内や東アジアなど短距離がメインです。ZIPAIRは、他の日系LCCと差別化するため、中長距離の国際線LCCとして位置づけられています。
2020年のコロナ渦で貨物便として運行
本来なら、ZIPAIRは2020年7月から運航を始める予定でした。しかし、2020年の初めから世界的に流行した新型コロナウイルス感染症による諸外国の渡航制限を受け、旅客便の運行開始は延期していました。
LCCとしては世界的に珍しい「貨物便」として、成田空港とソウルやバンコクを結ぶ便を運航することで、航空会社としての実績を積んでいました。
旅客向けは10月16日に運行開始
ZIPAIRは、ソウル便の旅客運行を10月16日に開始しました。2020年秋から、各国が渡航制限を緩和したことにともない、大手航空会社が国際線の運行を再開しつつあります。LCCとしては、ZIPAIRが先陣を切りました。
初便の乗客はたったの2名でした。しかし、さらに国際線の旅客数が回復することを見越して、一刻も早く旅客便の実績も積みたいという意図が見えます。
JAL系ならではの機内サービス
ZIPAIRはJALが作ったとはいえ、やはりLCCです。基本は従来のLCCのサービス水準や料金体系を採用しており、さすがにJAL本体のようなフルサービスには期待できません。しかし、他のLCCとの差異化を図るため、随所にJALならではの新しい工夫が見られます。
大きめの機体とゆとりのあるシート
ZIPAIRは、通路が2列あるワイドボディ機のボーイング787に、JALの国内線と同じ約79センチメートルの間隔でシートを配置しています。
ワイドボディ機自体は、ジェットスターなどでも国際線では使われており、目新しい点ではありません。しかし、一般的なLCCのシート間隔は約74センチメートルなので、シートにゆとりを持たせた点はZIPAIRの新しい特徴です。
ZIPAIR | 約79cm |
---|---|
JAL(国内線機材) | 約79cm |
ジェットスター・ジャパン | 約74cm |
ピーチ | 約74cm |
機内エンターテイメントは自分のスマホで
一般的なLCCと同様、ZIPAIRの機内にはエンターテイメント用の個人モニターはありません。しかし、JALの国内線と同じように、各自のスマートフォンやタブレットを機内WiFiに接続すると、映画などのコンテンツを無料で楽しめます。LCCとしては珍しく、充電用コンセントも各シートに設置されています。
機内食はスマホで注文可
機内食やドリンクもLCCらしく有料ですが、各自のスマホを使って機内で自由に注文できます。JALなど大手のビジネスクラスでは、機内に備え付けの端末を操作して食事を注文できますが、LCCでスマホを活用するのはZIPAIRの新しいシステムです。
一部のメニューは搭乗前の事前注文も可能で、カレーライスやカツ丼など、事前注文が必須のメニューもあります。
その他機内サービス
他に特筆するべきZIPAIRの機内サービスとして、WiFi経由のインターネット接続が無料でできる点が挙げられます。JALでも、国内線は機内WiFiを無料で使えますが、国際線では有料です。国際線のLCCで敢えて無料にするのは、世界的に見てもZIPAIRの新しい試みだと言えます。
一般的なLCCとの比較
ZIPAIRの「機内サービスを最小限にして料金を安く」というコンセプトは、他のLCCと同じです。しかし、機内モニターがない代わりに、乗客のスマホにコンテンツを配信可能にしたり、スマホで機内食の注文可能にするといった、コストをかけずに顧客満足度を高めるための、新しい試みが随所に見られます。
料金はLCCらしくJALより格安
従来のLCCを踏襲しつつもワンランク上を行くZIPAIRですが、基本料金を低価格に抑えて、手荷物や座席指定などに追加料金が発生するという点は、他のLCCと同じです。
ソウル便は片道8000円から
ZIPAIR | 他のLCC相場 | JAL | |
---|---|---|---|
エコノミークラス | 8000円~3万円 | 5000円~ | 1万7000円~ |
ビジネスクラス | 3万円~14万円 | 6万3000円~ |
成田⇔ソウル(仁川)の片道基本料金は、普通席が8000円~3万円、ビジネスクラスに相当する「ZIP Full Flat」が3万円~14万円です。他の航空会社と同様、時期や残席数で金額が変わります。
同路線の他のLCCは5000円ほどからなので、少し高めです。ただ、JALの羽田⇔ソウル(金浦)線は片道1万7000円以上するので、JALに比べたらやはり格安です。
手荷物にかかる追加料金
ZIPAIR | 他のLCC | |
---|---|---|
7kgまで | 無料 | 無料 |
7kg~12kg | 2000円 | 預け入れが必要 (10kgまで持ち込み無料のLCCもあり) |
12kg超過 | 預け入れが必要 | 預け入れが必要 |
ZIPAIRは、7キロまでの手荷物持ち込みは無料です。超過した場合、ソウル線なら2000円を払えば、12キロまで持ち込めます。一般的なLCCも、7~10キロまでの持ち込みは無料ですが、超過したら追加料金を払って預け入れる必要があります。
ロストバゲージが心配で預けたくない、到着後に荷物の待ち時間を無駄にしたくないといった人には嬉しい制度です。
預け入れ手荷物の料金
14kgまで | 3000円 |
---|---|
14kg~23kg | 4000円 |
23kg~32kg | 5000円 |
ソウル線の預け入れ手荷物の料金は、1個あたり14キロまで3000円、23キロまで4000円です。一般的なLCCでは、預け入れ手荷物料金を事前に支払うと割引になります。しかしZIPAIRでは、当日カウンターで支払うと、上記に加えてさらに1000円の事務手数料が追加で発生するので、注意が必要です。
座席指定の料金
含まれるサービス | 料金 | |
---|---|---|
Standard | なし | 基本運賃の8000円のみ |
Biz | 事前座席指定 機内持ち込み手荷物 |
+2200円 |
Value | 事前座席指定 預け入れ手荷物(23kg) 機内食 |
+4600円 |
Premium | 事前座席指定 預け入れ手荷物(23kg) 機内持ち込み手荷物 機内食 アメニティ |
+7200円 |
事前の座席指定の料金は、窓側、通路側、前方、後方、足を伸ばせる非常口座席などの分類によって100円~1500円かかります。当日チェックイン時にランダムで割り振られるので良ければ無料です。他のLCCと同様、手荷物や座席指定などの追加料金がパッケージになった運賃も用意されています。
JALが得意な海外路線から就航
ZIPAIRの就航地としては、既に運行しているソウルに加えて、2020年の時点でバンコクとホノルルが発表されています。いずれもJALの運行実績が多い国際線です。2021年以降は北米や欧州などの長距離線も期待されています。ZIPAIRの目的地について、他のLCCの就航状況などを解説します。
ソウル
初路線である成田⇔ソウル線は、コロナで各社が運休する前は、ティーウェイ航空、チェジュ航空など多数の韓国系LCCが入り乱れる激戦区でした。短距離なので、ZIPAIRの強みである機内サービスの魅力を生かしにくい路線です。
敢えてソウル線から参入したのは、まずは近場で実績を積むためでしょう。乗客の我々としても、試しに乗ってみるのに最適な路線ではないでしょうか。
バンコク
ソウルの次に就航するのは、成田⇔バンコク線です。所要時間は6時間ほどなので、ゆとりのあるシートや無料WiFiなど、ZIPAIRならではの魅力が発揮できる路線です。コロナ前はエアアジアやスクートなどが参入していましたが、エアアジアやスクートなどのLCCとはサービスの質で勝負していくことになるでしょう。
ホノルル
2020年の冬から、成田⇔ホノルル線への参入を目指しています。ハワイへはエアアジアが関西国際空港から就航していますが、成田からは初のLCC路線です。国内LCCとしても初のアメリカ路線です。
ホノルル線は、ANAが2019年から超大型機を投入してJALのシェアを奪いにかかっていた路線です。JALとしては、ZIPAIRと連携してシェアを守ろうとするはずです。
将来の路線拡大の見通し
2021年以降は、欧米線への参入を目指すとアナウンスされています。2020年時点では、日本国内と北米大陸や欧州を結ぶLCCはなく、コスト重視の観光客は、中国などアジア系航空会社の乗継便を使っています。国内から新しいLCCの直行便が実現すれば、コスト重視の観光客に重宝されることは間違いありません。
JALマイレージプログラムとの連携
残念ながら、2020年11月時点でJALのマイレージプログラムとの互換性はありません。ですがLCC業界を見渡すと、独自のマイレージプログラムを用意したり、大手の航空会社と提携している例は少なくありません。
同じJAL系のジェットスターでも、JALと一定の互換性が担保されてます。いずれは、ZIPAIRも足並みを合わせることは十分ありえます。
JALとのマイレージは貯まるか
2020年11月時点では、ZIPAIRに搭乗しても貯まりません。しかし、ジェットスターでは、基本運賃に手荷物や座席指定料金などがセットになったオプション付の運賃を選択すると、区間マイルの25%がJALのマイルとして貯まります。JALのマイルを使ってジェットスターに搭乗することも可能です。
いずれZIPAIRも同様の扱いになる可能性は十分ありえます。
空港ラウンジは使えるか
空港ラウンジのサービスも2020年11月時点では提供はありません。しかし、エアアジアやジェットスターなどのLCCでも、上級クラスなどチケットの種類によってはラウンジ特典が付いています。
ZIPAIRは、成田空港ではラウンジのないLCC用の第3ターミナルでなく、JALと同じ第1ターミナル発着なので、いずれJALのサクララウンジが使えるようになる可能性があります。
JALとのコードシェアの可能性
ZIPAIRでJALマイレージの恩恵を受けられる他の可能性として、JALとコードシェアをする場合があります。例えば、ジェットスターの航空券はJAL便としても販売されています。
成田⇔ソウル(仁川)便は、JALはアライアンスの異なる大韓航空とコードシェアをしていますが、提携先がZIPAIRに変わる可能性はあり得るでしょう。
格安だけどJALらしさの生きたLCC
ZIPAIRは一見すると、最低限のサービスを格安の運賃で提供する従来のLCCと同じように見えます。しかし、コストを抑えながらも、JAL系の名に恥じない高品質なサービスを提供しようという工夫が多数見られます。
コロナで渡航制限が厳しい間は、すぐ旅行で乗れる状況ではありませんが、自由に旅行できるようになった暁には、ZIPAIRの実力のほどを体感してみてください。
出典:ライター撮影